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これを読めばさらに本作を楽しめる!
ファン必見の神戸 守監督による演出ポイントシーン解説―第1章~第7章

「事件」ではなく「天才」を描くという意味で、本作はミステリィ作品ではなく、テーマは「考える」であると語る神戸守監督。
この哲学的テーマを映像に落とし込むために、定石とされる演出方法や、昨今のアニメの時流に囚われることなく、様々な実験的手法を試みている。

実写的とも言える抑えられた色彩設定、
リアルに再現された喫煙シーンの秘密、
シリーズ原作の中から1冊を取り上げ描こうとしたストーリー構成について、
音楽への思いe.t.c

第7章までの本作を構成する様々な要素について、ファン必読の神戸監督からのコメントをたっぷりとご紹介します。

第1章『白い面会』

【反復によって生み出されるリズムで映像を音楽のように表現】



◆四季と萌絵のホワイトルームでの面会シーン & ファミレスでの会話シーン

 以前から「音楽」と「映像」は似ていると思っていたのですが、一定のリズムを刻みながらも、そこにメロディのように会話が重なっていく「音楽」のような「映像」を作れないかというアイデアを持っていました。
 四季と萌絵ホワイトルームでの面会シーンと、ファミレスでの会話シーンは、「音」では無く、「映像」でメトロノームの様に一定のリズムを刻むチャレンジをしました。同じものを繰り返して見せたほうが、そう見えやすいのではないかと考え、同ポジションのカットを呼応させています。そうすることで、音楽のような映像をつくることにチャレンジしています。でも、もうちょっとテンポを短く刻んだほうが分かりやすかったなと今は思っています…(笑)


第2章『蒼色の邂逅』

【闇による効果でよりドラマ的に】



◆新藤と四季の車内のシーン&ウェディングドレスの遺体登場シーン

 「闇」は映像に様々な効果をもたらすと思うんです。2話はその「闇」を映像に取り組むチャレンジをしました。
まずは、四季が車内で新藤を誘うシーン。原作でも新藤と四季の車内での会話は有るのですが、ここまで四季はアピールしないんですよね。アニメでは四季の妖艶さを魅せる演出を加えています。「脚」は多くの男性が惹かれる部分でもあると思いますが、四季は自分から脚を見せて女性らしさをアピールします。また、四季が新堂に手を重ねて来るシーンがありますが、手を離す時にわざと指を一本残すようにしているんですよね。そこがエロティックに見えるポイントだと思います(笑)でも、これって、例えば白昼の公園で行われたら全然違うように見えると思うんです。薄暗い車内だからこそエロティックさが増す。まさに闇の効果だといます。
 また、ウエディングドレスの遺体登場シーンでは「明」と「闇」を一定のテンポで繰り返して見せる演出を入れました。これは、1章の一定のリズムを刻む演出と同じなのですが、一定のリズムを刻んで心地よい時もありますが、見える、見えないを繰り返しているとだんだんとイライラしたり、威圧されている感じがしますよね。四季の遺体が登場してくるラストシーンはそういう効果を狙っています。


第3章『赤い魔法』

【分かりやすさとは】



◆未来の登場シーン

 未来の登場シーンが気に入っています。新キャラクターの登場なので、普通だと音楽なり効果音をつけてドンと登場させるところを、あえて音楽も使わず、ただ未来が出て来て萌絵が見入ってしまう、という描き方をしています。こちらから印象づけようとするのではなくて、何もしないことで逆に印象に残らないかなというのがここの演出ポイントですね。
 これは作品全体的なことになりますが、最近のアニメは発色のいい綺麗な色を使うのが主流ですが、その逆があってもたまにはいいかなと思い、全体の色のトーンを抑えた実写的な色彩設計を意識的にしています。敢えて主流から外れることで、他の作品と差別化を狙っています。


第4章『虹色の過去』

【多重人格の映像表現】



◆四季の浴室のシーン

 四季の多重人格についてはダニエル・キイスの「24人のビリーミリガン」のドキュメンタリーを参考にしました。多重人格のメカニズムとして主人格を守るために色んな人格が出来てくるようなんですが、それについて森先生との往復書簡でも書いています。
 四季の他人格との会話は、お風呂場の鏡越しに自分の中の人格と語り合わせることにしました。鏡ってすごく不思議だなと思うんです。鏡に映った自分を見て、別人に見えることってありませんか?これ本当に自分なのかな?と思う、そんな効果を狙って鏡を使ってみました。
 あとこの回で気に入っているのはやっぱりミチル(四季が自作したロボット)です。ミチルは現場スタッフの間で可愛いと人気なんです。ミチルが最初に登場するシーンで目がピコピコ動いているんですが、気づかれましたか?あれは「誰?誰?誰?」というミチルの気持ちの表現しているんですよ(笑)


第5章『銀色の希望』

【タバコの表現】



◆犀川と萌絵の口論のシーン

 Bパートの犀川と萌絵の口論を長尺で見せるシーンは、これまでと同じく、一定テンポで同じポジションを繰り返す演出を取り入れています。それを長尺でみせるという非常に難しいシーンで絵コンテを担当してくださった工藤さんも苦労されていたようです。結果、こちらの意図を汲みとって下さって感謝しています。
 これはこのシーンに限ったことではないですが、同ポジションを繰り返してみせる中で、犀川の「煙草」が絵に変化をつけるのに一役買ってくれています。煙草の煙は普通、撮影処理で入れることが多いのですが今回はすべてCGで入れています。これは私がオーダーしました。CGだと移動する発煙点を追いかけやすいなどのメリットがあるのではないかと思いました。それよりも大きな決め手は、CG担当の福田さんが最近まで喫煙者だったからです。最近は煙草を吸わない方が多いのでリアルな煙草の煙の表現を説明するのも一苦労なのですが、それは福田さんなら安心だと。とても満足いっています。また、犀川の煙草を吸う仕草がリアルだという意見をもらうことがよくあるのですが、これは犀川が左利きなことが大きいと思っています。左利きのキャラクターって多くないので、アニメーターさんが絵を描くときに「どうやって持つんだっけ?」と実際に煙草を持ってみて確かめながら描くことになるのではないかと。それがリアルな描写に繋がったと思います。


第6章『真紅の決意』

【「考える」が作品全体のテーマ】



◆犀川と萌絵事件整理のシーン

 「すべてがFになる」の中でもっとも親切なシーンだと思います。これまでの事件を萌絵と犀川の視点で「説明」するシーンです。
 しかしシリーズ全体では、極力「説明」することをやめました。それによって弊害もあるのは理解しているのですが、原作を読んだ際に、この物語のテーマは「考える」だと私は思いました。ですので、今回は極力説明せず、視聴者の方に考えて頂きたいなと。それは説明台詞を入れないというだけでなく。「色」でも実践しています。今回四季の回想シーンが断片的に入る構成をとっています。普通だと現実と区別がつき易いよう過去のシーンでは色のトーンを落とすような演出をよくやるのですが、この作品ではあえてやっていません。視聴者の方がこれは過去なんだと思えば過去としてみてもらえれば良いし、そこはご自身で「考えて」判断してもらいたいと。こちら側から押し付けないようにしています。
 全部説明することが「分かりやすさ」ではないと思うので。
 例えば、男の子が同じクラスの女の子を好きになるという気持ちは、説明しなくても誰でも理解出来ると思うのですが、人を好きになるのに理由がないように感覚的に理解できることが「分かりやすい」ということじゃないのかなと、今回はあえて説明的なことはやらないようにしています。
逆に、説明しないと視聴者の方はそんなにわからないのかな?と。そうでは無いと思うので。

 また、今回は「考える」というテーマをじっくり扱いたく、あえてS&Mの他シリーズには手を出さず、「すべてがFになる」の一つの事件だけを掘り下げります。今回一番描きたかったのは「事件」ではなく、「天才」です。そういう意味でアニメ「すべてがFになる」はミステリィでは無いですね。


第7章『灰色の境界』

【なるべく曲を編集しない音づくり】



◆Bパートのあるシーン

今回、音楽の川井憲次さんに、とても川井さんらしい楽曲を上げて頂き、とても嬉しく思っています。だからというのもありますが、もともと音楽を編集して使いたくないというのがありまして、なるべく1曲を長く使いたいと思っています。以前に、悲しい場面では悲しい音楽を、楽しい場面には楽しい音楽をというように音楽でシーンを説明するために1曲をぶつ切りで使っている作品があり、見るに堪えないと感じたことがありました。こういうやり方は作曲家の方も本意ではないと思うのでなるべく、1曲をそのまま使うようにしています。結果、各話に使う曲数は5曲前後と、他の作品に比べるととても少ない曲数になっています。
 7章ではBパートのあるシーンで、このシーンだけの為に川井さんが書き下ろした楽曲が流れます。これにはある事情がありまして…。川井さんに全曲納品して頂き、ダビングもある程度すすんだある日に、ふと気が付いたのです。「7章で明るく楽しいシーンがあるけれど、川井さんに納品頂いた音楽は全てシリアスで重厚だ!」と。「すべてがFになる」はそういう作品なので…。そこで川井さんに相談したところ短い日程でこのシーン合わせた音楽を書き下ろしてくださいました。そんなとても贅沢なシーンです。

 また、7章では犀川と未来の会話があるのですが、これが全て英語なんですね。しかもかなり長いんです。犀川役の加瀬さんと未来役の甲斐田さんは大変苦労されていました。こんなに長く英語だけで話し続けるアニメも無いと思うので是非注目してください!